「…ごめんねちゃん…本当に…」
「いえ、いいんですよ。私に出来ることなら遠慮なく言ってやって下さいね!」
「ふふ…ありがとう。本当にありがとうね」
「いえいえ」
「こんなにいい子が…どうしてあんなダメ侍のいいようにされてるのかしらって思っちゃうわ」
「あ、あはは…」
「それじゃ、ごめんね?時間がないから…今度お礼するわ。またね」
「はい、頑張ってくださいね!」
そう言って、私は「スナックすまいる」の裏口から店の中に入っていくお妙さんを見送った。
…30分くらい前、お妙さんから電話があったのだ。
時間は夕方から夜にさしかかる、ちょうどお妙さんが仕事を始めるであろう時間に。
それだけでなんとなく予想はしていたのだけれど、こんな形でかぶき町の淫猥な雰囲気の通りまで来たのは初めてだ。
…お妙さんは、色々あれど人気のコンパニオンだ。
ノルマ制度のあるお店では、その指名などは控え室に堂々とグラフで貼り出される。
それを見たほかの冴えない同僚から、度々微々たるものではあるけれど陰湿ないやがらせを受けている、
という相談を、私はかねてから受けていた。
男の銀さんや、くわえて心配性の新八君には言えない悩みだったのだろう。
かといって神楽ちゃんに話すには、神楽ちゃんはまだ幼すぎる。
お妙さんは強く見えて、それでもどこか脆さを持っている。
私とそう変わらない年齢なのだ。色々見捨てて、蓮っ葉になることはまだできないのだ。
だから、そんなささやかな相談を聞くのは私の勤めだと思った。
役に立てるなら嬉しいし、ろくな助言も出来ないけれど、話を聞くだけでもお妙さんは大分楽になるみたいだった。
…そのお妙さんから電話があった。
お店に置いておいた化粧道具を誰かに盗まれたか、隠されたか捨てられたか。
いずれかにせよどこかにやられてしまった、と。
代わりのものを買いに行くにも、開店まで時間がない。
口開けでぐずるわけにもいかない、どうしよう―と、戸惑いの声を出すお妙さんに、
それじゃあ私が今から、化粧品を買って届けに行きますよ、と宣言した。
お妙さんは、それは悪いわ、こんな治安が悪いところに―と淀んだけれども、
それしか方法がないと思ったのか、心底すまなさそうな声で、「それじゃあ、お願いできる?」と言った。
私は大急ぎで言われた化粧道具を近場のドラッグストアで揃え、
かぶき町でも目立つ店だからすぐわかるわ、と言われて「スナックすまいる」の看板を探した。
…で、現在に至る。
実になんとも、猥雑な雰囲気だなあ、と何があるわけでもないのにドキドキしながら、そのへんをキョロキョロしながら歩く。
黒いスーツのグラサン男、
派手な着物か、もしくは近頃流行りのミニ丈をさらに短くして、ほとんど下着丸出しのマイクロミニ着物の女たち。
そしてそんな女たちと連れ添って歩く、好色そうな男たち。
ピンクやブルーのネオンが妖しく輝いて、沈みかけた夕陽の中、この街を不可思議な闇の中へ落としていく。
「…あ、こんなとこにもドラッグストアがある」
まあ、ないと不便なのかも。
そう思って私は一店だけただの蛍光灯で薄明るい店内に入って、
フルーツの缶詰とすでにホイップされてあとは絞るだけの状態になったホイップクリームを購入した。
家にホットケーキミックスがたくさんあったから、これで明日のおやつを作ったら銀さんに喜んで貰えると思ったのだ。
「…」
そんな自分の考えをちょっと恥ずかしいと思いながら、私は店を出て、そして一瞬、ぽかんとなった。
その人影は通り過ぎていく。立ち止まりながらも、慌てて視線で追う。
阿波踊りの浴衣の柄にも似た羽織。
腰のベルトに差した木刀―あれは、銀さん以外の誰でもないのに。
誰でもないのに、あれは銀さんじゃない、と頭が必死にそう思おうとするのは、
その銀さんに甘えるように腕を絡ませて、作り声を出している派手な着物の女が隣にいたからだ。
「―…」
思うより、行動のほうが早かった。
私はその人影に精一杯の速度で走り寄り、銀髪パーマにさっきの買い物袋をフルスイングでぶつけていた。
「がっ…あ、あでえええっ!」
中には重たい缶も入っていた。それがヒットしたのだろう。
銀さんは思い切りよろけてその場に膝をつき、隣の女は私を見るなり怯えた表情で飛び跳ねるように逃げていった。
「ったく誰だァァ!俺ァ闇討ちされる覚えは…あ?」
「……」
怒りで言葉が紡げない。
悔しさもあり、悲しさもあり、もうどうにでもなれというやけくそもあり。
私は腕を組んで、「説明して」とだけ言った。
自分でも驚くようなドスの聞いた声だった。
銀さんは私を見るなり面倒くさそうな表情になり、私が殴った部分をさわさわと撫でながらゆっくり立ち上がった。
「、なんでこんなトコにいんだよ?オメーが遊べる場所じゃねーだろ」
「質問してるのは、こっち」
「何をだよ」
「わかんねえのかこのド腐れスケベが!」
苛立って、立ち上がった銀さんを見上げながら唾を飛ばして怒鳴り散らした。
銀さんは目を瞬かせて、それからはっとしたような顔になり、面倒くさそうに目を瞑った。
「あー…さっきの女?」
「他に何があンだよ」
「お前キャラ変わってんぞ…ありゃ昔の馴染みだよ」
「そんなこと聞いてねえよ!」
「いや、ちょ、だからさァ、落ち着け?落ち着けちゃん?」
「黙れ!」
さらに苛立ちが増して、私はまた持った袋で銀さんの腿あたりを殴った。
銀さんはダメージでよろけつつも、また面倒くさそうに「落ち着けよ」と繰り返した。
「これが落ち着いていられるかっ!」
また買い物袋を振り上げた私の腕を、銀さんが素早く、そして強く握り締めて止めた。
「っ…」
その力にびっくりして怯んだ私に、銀さんはふうと一息ついて、けだるそうに喋り始めた。
「昔の知り合いでよ。今日パチンコ行ったら、隣の台に座ってたのがアイツだったんだよ」
「…」
「そんで単にアイツが今から出勤だっつうから、それまで適当な話とかして…って、アレ、何、お前信じてねーな」
「…そんな話、信じられるほうがおかしいわ」
「ああもうめんどくせー!何もしてねえよ!なんもねーよ!」
「嘘っ!」
私はそう叫んで、銀さんの手をぐっと掴んだ。
そのまま歩き出して、「おい!」と声を上げる銀さんを連れて、一番最初に目に入ったホテル、
「愛宿 婆離庵」という看板を掲げるそこへ入っていった。
「お前…何考えてんだよ」
「う、うるさいっ!」
こんな建物に足を踏み入れるのは初めてだ。
緊張で声が上擦る。
薄暗いフロントに、ピカピカ光るパネルが立っていた。
コレで部屋を選べということらしい。
私はためらわずに一番値段の高い部屋のボタンを押した。
カチャン、と鍵が落ちてくる。
「オイ…、マジで何考えてんだよお前エエ!」
「銀さんが潔白だってんなら、それを確かめにいくのっ!ホテル代は銀さんが払うんだからね!」
「んなっ…」
言葉を失った銀さんの腕を引っ張って、無理矢理エレベーターに乗り込む。
エレベーターはすぐに目当ての三階に昇りつき、扉が開くなり私は急ぎ足で鍵に記してある部屋番号を探す。
そして部屋を見つけ出すとぐいっと力任せにドアを開いて、
乱暴に下駄を脱いで、高そうな絨毯が敷かれた部屋に足を踏み入れる。
納得していないという表情で棒立ちになっている銀さんに、私はまた声を上げた。
「早く靴脱いでっ!早く!」
銀さんが死んだ魚の目でしぶしぶブーツを脱ぐのを、イライラしながら待つ。
買い物袋をどさっと部屋のソファに置くと、ようやっと部屋に上がってきた銀さんに、いきなり掴みかかった。
「おいっ…」
「浮気者…確かめてやるんだから…!」
言って、しゃがみこんで銀さんのズボンのチャックを下ろす。
「ちょ…ちょ待って、何なの?何なのちゃん?!」
「これで立たなかったら…さっきの女としてたってことだからね…!」
銀さんにも自分にも言い聞かせて、露出した銀さんのそれを、いきなり口に含んだ。
「ちょお…っ」
まだ全然硬くなっていないそれは、私の口の中でてろんとうなだれている。
私はそれをぺろぺろと舌を使って口の中で遊ばせる。
しかしそれは屹立することなく、それどころかさらに縮こまっていくだけだった。
「…っ」
銀さんのそれから口を離して、私はじとっ、という表現がぴったりなんて自分でも思う視線で銀さんを見上げた。
「ちょっとストップ!あのなぁ…」
「…信じてたのに」
そう一言つぶやくと、今まで怒りと勢いだった感情がすべて悲しみに変わって、涙がぼろっと溢れた。
「私だけ浮かれてて…」
「だぁぁぁぁ!あー!このコはもぉぉホンットにさあああ!」
その声量に、私はビクッと肩を震わせた。
ふざけているのでも、情けなく言い訳しているのでもない。
銀さんの声にはまぎれもなく怒りが篭もっていて、そしてその怒りは爆発すると凄まじいものだと私は知っているから、
涙も止めて怯えるしかない。
「疑わしいことしたのは謝る!銀さん悪かった!はいこれはもうナシ!ここで終わり!」
「お、終わり…って…」
「で次!銀さん怒ってます!さてなんでかなそこのキミ」
「え?!え…?!わ、わかんないよ…!」
「ハイ今のでまたクレジットひとつ!増えたぜ」
「だ、だからわけわかんない!」
私が本当に銀さんの言葉の意味を理解できず逃げ腰になると、銀さんはふんっと鼻息を漏らして、
座ったままの私の脇の下にぐいっと腕を差し込んできた。
「え?あ、やっ?!」
そのまま軽々と私は持ち上げられて、ポイッと大きなベッドの上に放り出された。
うつ伏せに倒れこんで、立ち上がる間もなくそこに銀さんが覆いかぶさってきた。
「お前、信じてないんだろ」
「…え?」
「あー…」
「わ、わかんな…」
「だから」
銀さんがすごむ。
「俺がお前だけってこと、今までずっと一緒に過ごしてきたのに信じてナカッタンデスネってことを言ってんだよ、俺は」
私の両頬を大きな手のひらでぐいっと押さえつけて、鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離で、
低く私の身体の芯に浸透するような言葉を、放った。
「……さい」
私は銀さんの顔を正視することが出来ず、瞳を逸らして小さく漏らした。
「あ?何だって?」
「ご、ごめんなさい…!」
…恐怖心が、今度は全て罪悪感に変わっていく。
「今気づいた」なんて自分でも嫌になるけれど、
私は独りで大騒ぎして、心から好きだと言える人の気持ちをちゃんと考えもしなかった。
それこそ、ずっと一緒にいたのに。
「…ごめんなさい」
ただそう言うことしかできなくて、じわりと涙が溢れた。
その涙を、銀さんの親指がぐいっと拭う。
「わかりゃあいいんだよ」
銀さんが面倒くさそうにそう言って、私のことをぎゅっと抱きしめた。
そのまま銀さんはゴロンとベッドで転がり、二人して冷たいシーツの上で抱き合う。
「銀さん…」
私は後悔と羞恥心と、反省が足りないと自分を責める気持ちで一杯だった。
「あー……」
見るからに萎れる私を見て、銀さんが自分の頭をがりがり掻く。
「しおらしく反省すんのも結構だけども」
銀さんが上半身を起こし、それから私の上半身も引っ張ってベッドの上に座らせると、
着物の裾から手を入れて私の太腿をむにむにと触ったので、私はびくりと固くなる。
「せっかくの初ホテルなんだしさァ」
「え…えーーと…それは…」
銀さんの言わんとしていることを理解して、かあっと赤くなる。
…というか、本当に勢いに任せての行動だったけれども、私にとって初めて入るラブホテルだったわけで、
なんだか本当に「あああ…」という具合である。
「あ、ああ、え、えっと、えっと…!あ!じゃあお風呂!お風呂入ろう!」
「あん?」
「万事屋の狭いお風呂じゃなくて、ほら、なんかここは二人以上入れる感じのお風呂がある!あったまろ!」
自分を誤魔化すためにバタバタとベッドから降りて、部屋の中、ガラス張りになったお風呂場のドアを開ける。
真っ白の磨きぬかれたタイルと、スーパー銭湯の家族湯並に広い風呂釜がドーン。
万事屋のお風呂では、身体を体育座りの形にしないと肩までお湯に浸かれないけれど、
ここならいくら脚を広げても大丈夫な気がする。
「…お風呂プレイ?」
「え、え?!あ、いやそういうわけじゃなくってえええ…ええっと…なんだろう…」
銀さんの顔が、どんどん破綻してゆがんで、口許がつりあがっていく。
スイッチが入ったらしい。
もうこれは逃れられない、と私は観念して、ただ黙ってうつむいた。
銀さんはそんな私の真意を「察して」くれる。
私を正面からぎゅっと抱きしめて、後ろ手で着物の帯をしゅるりと外す。
途端にだらんとはだけた私の着物を丁寧に脱がしていって、私を下着だけの姿にする。
「う…」
ブラジャーとパンツだけになって、思わず上半身を両腕で覆ってしまう。
銀さんは無表情に、自分のベルトと帯を外して、羽織をばさっと脱ぐ。
中の黒いシャツとズボンも、手早くささっと脱いで下着一枚になる。
「隠すなって」
「で、でも…」
「俺も脱ぐから」
そう言って、銀さんは自分の下着に手をかける。
…銀さんが一糸纏わぬ姿になって、さっきはあんなにしな垂れていた肉茎がびくんと動きながら大きくなりかけていることに気付く。
「銀さん…」
「もだ、ホラ」
「あ、う、うん…」
言われて、銀さんに背中を向けてブラジャーのホックを外す。
それを身体から抜いてぽんと床に放って、今度はパンツに手をかける。
少し戸惑って、下着の端に手をかけたまま凍っていると、後ろから銀さんが私のことを抱きしめた。
「あ、あぁ…」
その手は私の手に添えられて、下着を脱がそうとする。
同時におしりのあたりに、銀さんの熱を当てられてドキドキする。
「ホラ、脱げ」
「うん…」
い、いけない、もう脳みそがとろんとしてきてる。
そう自覚しながらも脳内からどくどく吐き出される物質は、私をぼんやり気持ちよくしていく。
パンツも脱いで、完全に裸になると、私は銀さんの腕からさっと逃げるようにしてお風呂場に逃げ込んだ。
銀さんは淫猥な微笑みを浮かべながら、全裸でそんな私を、まるで追い詰めるように後からお風呂場に足を踏み入れる。
「…お?」
「ど、どうしたの?」
「いいのがあんじゃん、ここ」
「え…?」
銀さんが真っ白なお風呂場の壁に立てかけられた、イマイチよくわからない銀色のてかてかしたものを見てまたにやける。
「これ…なに?」
「……」
銀さんが、にたぁっと笑う。
それからその銀色の、銀さんがばふっとタイルに倒してようやくわかったのだが、薄めのマットレスを踏んで、
それからお風呂場の、シャンプーとボディソープの横に置いてあった透明のボトルと洗面器を手に取った。
「…?」
「風呂釜に湯張っておけ。寒いと嫌だしな」
「え?え、あ、うん」
言われて、バスタブの蛇口をひねる。
すると銀さんが横から手を伸ばしてきて、洗面器に流れ出したお湯をじゃばっと入れた。
「せ、説明してよ銀さん!」
「お前、大胆なワリにウブなんだな」
その洗面器をマットの上に置いて、銀さんがその上に胡坐をかく。
手招きされたので、私もそこになぜかかしこまって正座で座った。
透明なボトルのキャップを外すと、銀さんはそこからとろりと出た粘液を洗面器に入れていく。
そこでようやく、私はそれがローションだということに気がついた。
「…あの、もしかしてですね、あの」
銀さんが無表情にローションとお湯を洗面器の中で混ぜているのを、私はちょっとドキッと、ちょっと焦りながら見る。
「うらっ」
「あ、ひ、ひゃぁあっ?!」
ぬるりと糸を引いた液体がつく手で、銀さんが突然私の太腿を触った。
そのにゅるにゅるとした感触に、私は焦って脚を崩し、そして崩した脚を銀さんに掴まれてずるーっと仰向けに引っ張られてしまった。
「えわ、いや、ちょ、やだやだ、く、くすぐったいいい!」
脚をもがもがさせて逃げようとする私を銀さんが捕まえて、そのまま身体中にぬるぬるの液体がついた手を這わせていく。
「や、や、きゃひ、ひ、ひゃああ、ああ、ちょ、だめ、だめええ!」
「大人しくする!何事も体験だ」
「こ、こんな体験いらない…っあああ!」
銀さんがさらに、マットと私の肌の間に手を突っ込んで、ローションを背中に塗りこもうとしたので、
大慌てでもがいて逃れようとしたけれど、上半身に塗りたくられたローションのせいで滑って、逆に私はうつ伏せになってしまった。
その上から、銀さんのたくましい肢体が私を挟み込んで固定する。
「よし…捕獲完了」
「や、やだ、ほ、ほんとにくすぐったいの…!」
くすぐったいだけではない。
銀さんの締まった、ほどよく筋肉のついた肢体が、あますところなくその温かさと屈強さを伝えてくる。
肩甲骨には厚い胸板が触れ、お尻の谷間にはどこよりも熱い肉茎が触れ。
私はその感覚に脳ミソをどろどろにされてしまいそうになりながら、いや、いや、と口先だけで拒否していた。
「ひ、あ、あぁあ!」
脇の下から回り込ませる形で、銀さんがぬるぬるした手で私の胸を掴む。
むにゅりと、おもちゃかなんかみたいに銀さんの手の平の中で形を変えながら滑る自分の胸が、
私にくすぐったさとは違う気持ちを抱かせて、私はきゅうっと下唇を噛んだ。
「お前、ホント肌すべすべだよな…」
「や、やだ…い、言わないで…」
「わかんだろ?お前のけつの谷間に何がくっついてんのか」
「あ、あ、う…わ、わか…」
「わかんねえ?じゃ、わかるまで教えてやる…っと」
「ん、んくぅ?!ふぁぁ!」
銀さんが、お尻の谷間に挟まった銀さんのそれを、身体全体を揺すって私に擦り付ける。
銀色のマットの上で、全身からにちゃにちゃ音を立てながら、私はその肉茎の熱く脈打つ感覚に震えた。
「や、やあ…」
蕩ける。脳みそが本当に蕩けてる。
銀さんが大好きなチョコレートパフェのアイスクリームみたいに、どんどん溶けて粘り気のある液体になってく。
その液体が私の頭の中をたぷたぷにして、恥ずかしい気持ちもくすぐったい気持ちも捨てさせてて、
私を、ただ銀さんを感じるだけのものに作り変えてしまう。
「あ…あ、わ、わかる、よ、銀さんの…銀さんのぉ…」
「銀さんの…何?」
銀さんは一旦ぴたりと動きを止めて、私の顔を覗き込んだ。
楽しんでる瞳。でもふざけてない瞳。私のことを、好きだと伝えてくれる瞳。
いつも死んだ魚のようだと喩えられるその瞳から、それだけの感情を感じ取れるようになったもの、
私と銀さんの歩んできた道であったのだ。
私はそのことですこし、感情的な涙がじわりと滲むのを感じながら、熱い吐息をふうと吐き、
苦しい体勢であったけれども、銀さんの唇につんと口付けた。
「銀さんの…お、ちんちん…」
「が大好きな?」
「う、うん…だ、大好きな、大好きな銀さんの、大好きなところ…っうン!」
銀さんが私のことをぎゅうと抱きしめた。
私は自分で言ったセリフに自分でびりびり痺れながら、震える肢体を保ち続けられず声を漏らした。
「ぎ、んさん…い、いれて…!」
「あ?」
「銀さんの、いれてよ…!」
銀さんの肉茎が、ぴくっと脈打ったのがわかった。
「じゃあもっとエロく言ってみ?の大好きな銀サンの何を、お前のどこに入れて欲しいんだよ」
「うくっ…」
そんなこと言ったら恥ずかしくて死んでしまう、という気持ちと、
言ってしまえば気持ちいい境地に立てるという誘惑が頭の中で揺れて。
「ぁ…あ、わ、私が、大好きな、銀さんの、熱い…お、おちんちんを、ぬるぬるした私の…あ、アソコに入れて…!」
私は、自分が思いつく限界の言葉で装飾して、今の自分の欲求を口にした。
銀さんが、ふへへ、みたいな感じに笑った。
それだけだと恥ずかしい泣きたい、だけだけれども、同時に銀さんの熱がどくんと大きく動いたので、
銀さんも今の言葉で感じてくれたのだ、と理解して私はローションじゃないもので自分の秘部を潤わせていく。
「あ…あ、あぁあああ!」
それから、なんのためらいも突っかかりもなく、私の膣の中に銀さんのそれが入り込んできた。
めりめりと音を立てそうなくらいに屈強で硬いのに、溢れた私の愛液と塗りたくられたローションのせいで、
すんなり銀さんを受け止めてしまった私は、滑るマットの上でびくっと硬直した。
「あ、は、はいっ…はい…ったあ…」
頭の中から甘い液体が垂れている。目の前をぼんやりさせて、
でも銀さんの感覚は余す所なく、強く感じるように私を洗脳する麻薬が、脳みそからじかにたぽたぽ溢れている。
私はもう銀さんに完全に支配されてしまっているのだ。
精神的な繋がりも、こんなに喜んでしまう肉体も。
「あ、く、ぅうう…!」
「お…ちょ、お前っ」
銀さんが挿入した状態からあまり身体を揺さぶってくれないものだから、じれったくなってぐっと身をよじった私を、
銀さんが慌てた様子で押さえつける…が、その手も背中をにゅるりと滑り、それはそれでくすぐったい快楽を与えられるのだった。
「…ケツ締めんな…中キツすぎ…っ」
「あ、だ、だって…ええ」
「だから締めんなっ!出ちまうだろうが!」
「い、いいよ…出しちゃっていいよ…中にどくどくってして…私…」
「…ンでスイッチ入るとこんなにノリノリになんだよ、お前って…」
スイッチが入ったんじゃない、スイッチが壊れちゃったのだ。
もうオンもオフもなく、ひたすら出力を最大にして銀さんの中で気持ちいい破滅を味わうしかできなくなってる。
「あ…こ、壊れてる、から…っ」
そのことを気が付いたら口にしていて、でもそれも完全にではなく、
途切れ途切れに、奇妙なニュアンスで自分は本当に壊れていく。
「私…銀さんに壊されちゃったから…どんなことされても…あ…よくって…ぇえ」
言いながら、少し腰を揺する。
「いつもいやいや言ってるけど…ホントはもっと銀さんとエッチなことしたいって…もう脳みそ…それしか…ッ?!」
言ってる最中に、銀さんがぐんっと私を突いた。
子宮の入り口がびくっとしている。突然の刺激に驚いている。
「は、あ…あくっ!」
また、ず、と強く深く突き込まれる。
「…それでェ」
「あ、え…?!」
「それで壊しちゃった銀サンに責任取れって?」
「そ、そういうんじゃ…で、でも」
「でも」
「でも…い、今は、いっぱい満足させてほしいな」
「そりゃ言われなくても…一にも二にもまず心ってのを銀サンが教えてやるよ…っと」
銀さんが身体を、私と繋がったまま…つまり私を後ろから抱きかかえながら、起こした。
そして洗面器に、お風呂になみなみ溜まったお湯を入れて、それをおもむろにばしゃっと私と自分にひっかけた。
「あ、あったか…んん?!」
水分を受けて、ぬるぬるがねばねばになっていたローションが、またぬるぬるしだす。
そして私に戸惑いの余地もくれず、銀さんは私のことを捕まえて、深く入った肉茎を中の壁にぐりぐり押し当ててくる。
「ああんあああ…!あ、ああ…!」
「目一杯拡げてがばがばにしちまうのもいいな…」
「な…!何でそんなこと言うの…いや、やだ、あ、やあ…!」
「俺の以外じゃ満足できねェようにしちまうんだって。のまんこ、俺専用にすんの」
「あひっ?!あ、や、やだ、ぎ、ぎんさん専用って、ああ、あ、ああああ…!」
自分の膣が、勝手にきゅうきゅうしまって銀さんをみちっと締め付けている。
「…あ?お前、そういうの燃える系?」
「いひ、や、あ、耳、やだ、言わないでえ…!」
ぱちん、ぷちん、と、身体についたローションの気泡がぶつかっては消えて小さな音を立てる。
私の臀部と銀さんの内腿がくっついてははなれて、私は落っことされて突き上げられてを繰り返される。
「…よォ」
「な、なに…いッ!」
「言ってみ?お前は俺専用です、銀サン以外は受け付けません、銀サンで壊れちゃいましたって、さっきみたいによ」
「あ…だ、だけど…だけどはずかし…!」
「言えたら、俺もちゃんとお前に言うから」
「えぁ…?な、なにを…?」
「お前が先…ほらっ!」
「あっ?!」
「うらっ!うらっ」
「あ、や、やだやだ、奥がひしゃげちゃううう…!変なかたちになっちゃうよぉ!」
「その調子で言ってみろって…おらっ!」
「あ、ああいいい…!」
奥に突き入れたまま、銀さんの肉茎の先っぽは私の体の中身の更に奥の入り口を、ごりごりこすって遊んでいる。
激しく動かされるんじゃなくて、そういう風に遊ばれているものだから、私はどんどんじれったくなっていく。
…それで、また頭の中の麻薬に頼って、思うまま口にしてしまったのだ。
「あ、わ、私のお…おまんこは、銀さん専用の…銀さんのためだけにある精液トイレです…!」
「っ…」
「あ、あ、でもいやじゃなくて、トイレ嫌じゃなくて、銀さんに出されるのうれしくて、もう壊れちゃってるからぁ…!」
恥ずかしさに涙がじわっとなったけれども、同時に膣もどろりと濃い愛液を垂らした。
私は自分で、自分の言ったことに興奮している。
…そして、銀さんもすごく興奮している。
私の中の銀さんは、もう破裂しそうなくらい張り詰めている。
「ハイよく言えました…銀サンもーねェ、こんだけカワイイ専用まんこがあるって最高」
「あ、ぎ、銀さんは…?!銀さんも、私に、言ってくれるんじゃなかったの…?!」
「…あーハイハイ。教えてやるよ」
銀さんが、私の耳元に唇を寄せて。
「俺もな、もう随分壊れてる。専用になっちまったわ」
言われて、凄まじい快楽に私が身をよじったのを、銀さんがはっしと受け止めてとめる。
いききれない。昇りきれない。なんでこんな状態に留められなきゃならないのか、ちょっと混乱してかぶりを振る。
「飯食ってるときとかさ、お前の口とかベロとかいつも見てるし」
「はぁぅ…?!」
「お前の洗濯物嗅いだりしたこともあったわ」
「え、あ、あぇ…?!」
「こないだ、が入った後の風呂場でこいちまったしな」
「う、うそ、うそうそいやだいやそんなの恥ずかしい恥ずかしいけどやだやだ嬉しいから言わないでだめだよだめだめえ…!!」
銀さんが自分の罪を吐き出し始めたことにさらに混乱する。
それは嬉しすぎることだった、銀さんが自分に欲情してくれていると、単純にそれを喜んでいる自分がいる。
「もーお互い壊れすぎだろ…お互いで壊れすぎ。それしか頭にねェくらいなんだから、変なこと考えんな」
「あ、う、うん、うん!考えない、もう私銀さんのことしか考えない、あ、だ、だからもっと…!」
「だからもっと?」
「もぉ…もう、い、いかせて…!」
銀さんが私の身体をマットにべたっとつけさせた。
それなのにお尻は高く上げさせられて、銀さんはその上にほとんど乗っかってずぶずぶと私のことを貫いた。
「あ、ああぃいいいい!あ、だ、だめ、だめだめもう…!」
「ほら受けろよ!お前しか味わえねー銀サンの…っ!」
「あ、あう、ああ、ああああああああ!!」
私は簡単にびくびくっと痙攣して絶頂を迎えた。
頭の中にぼんやりもやがかかる中でも、銀さんの肉茎がぴゅくぴゅく、ずっと脈打ってるのを感じていた。
「…ちゃん」
「…あ、あは」
「お礼がしたいって言ったわ。言ったわ、私。でもね」
まともに声の主の顔を見ることが出来ない。
私と銀さんは思いっきりうなだれて俯きながら、「愛宿 婆離庵」の前で、
ずごごごご、と地響きな効果音をつけても違和感なさそうな強烈な威圧感を放つその人、志村妙さんに対面していた。
「まさかね、こんなに早くこんな形でお礼なんて思わなかったわ」
「す…スミマセンね…こ、このコがなんかぐっすり寝ちゃったもんで…」
「寝ちゃうくらい疲れる運動をさせたのは銀さんなんでしょ?罪をなすりつけるなんて最低よ」
「ち、ちがくてお妙さん…私が…その」
…あのあと、身体をゆっくり洗って温めるためにゆっくり二人でお風呂に浸かり、
そしてバスローブに着替えて髪を乾かしたりしてふざけあっていたら気が付いたら寝ていた。
フロントも意地が悪い。ご休憩からご宿泊の時間になっていてもコールしてくれず、
宿泊時間が切れ、空が白み雀がちゅんちゅん鳴き始める頃にようやく電話をくれて、それで私達は起き上がって慌てふためいた。
銀さんのお財布の中には5千円札が一枚ひらり。
私のお財布も似たようなものである。二人で出してもぜんぜん足りない。
悩んで悩んで悩んだ末、私は仕事終わりであろうお妙さんに電話をかけた。
そして現在に至る、と。
「まあ…見逃してあげる。今日に限って。今日だけ」
「め、面目ないです…」
「ただもし今度こういうことがあったら…そうね、銀さんはパイプカットして、ちゃんは栓をしたほうがいいわね」
ウフフフフッと笑いながら言うお妙さんを前に、私達はひたすら平身低頭だった。
****************
書き始めてから完成までが長かった銀さん夢。
最初に書いた銀さん夢に比べて、こう、どんどん夢主さんが壊れてってるんですよね…なんだか。
だから今回はこわれる、を言葉にさせてみましたとかいうのはどうでもよくていつにもまして下品ですみませんというはなし。ごめんなさい。