花珠

 その日は帝國図書館でクリスマス・パーティーが催されていた。
 談話室や応接間を開放して飾りたて、テーブルにはケーキやターキーが山ほど積まれた。
 立食形式のパーティーで、各々が自由に行き来する。豪奢な飾りや馳走はみなの心を浮き足立たせた。
 菊池が思うに、祝い事というのは勝手に盛りあがるものではない。騒いでめでたい気配にするぞという、ひとりひとりの意識が大切なのだ。
 ということで菊池も、あまり得意でない酒は巧妙に避けつつにぎやかな宴を楽しんでいた。
 やがて夜も更けていくとちらほらと抜けだす者も出てきた。菊池は今日何度も顔を合わせてはいるがあまり言葉を交わさなかった司書を探して、談話室から出た廊下で見つけた。
「お嬢」
 声をかけられると、司書は振り返って柔らかな笑みを作った。
 クリスマスを意識しているのか、ワインレッドのスカートの上に深緑のコルセットを締めた、実にかわいらしい姿だ。
 例によって気遣いが当たり前になっている彼女は、今日もあちこち動き回って酒を注いでということをしていた。菊池はそこにもどかしさを抱くが、それが司書の性分であるし、美徳ともとれるのだから、無理に制止もできずただ見守った。
 が、我慢もそろそろ売り切れになった。この甲斐甲斐しい女を、自分という止まり木で休ませてやるべきだ。
「アンタさえよければ抜けないか。どうにも、な」
 司書の腰を優しく抱く。抵抗はみじんもない。
「そろそろ二人きりになりたいんだ。いいだろ」
「は……はい」
 耳たぶに向けて囁くと、白い肌をかあっと赤くしながら応えてくれる。彼女の中にもある程度期待があったのだと思うと胸が跳ねた。

「先生……見てほしいものがあるんです」
 人の気配を避けるため、男子寮から離れた司書の部屋になだれこむ。
 扉を閉じて二人だけになったとたん、司書は菊池の胸板にしがみついた。菊池はその身を受け止めて、髪を撫でながら鼻筋をつむじに埋める。汗とシャンプーの香りがした。
「……引かないですか?」
「引くって、なにがだ」
「ううぅっ……」
 司書は名残惜しそうに菊池の胸から離れ、もぞもぞと膝下まであるスカートを掴んだ。菊池が声を上げるより先にそれをたくし上げてしまう。
 白い太ももが見えたところで初めて、今日はストッキングではなくニーソックスを穿いていたことに気がつく。しかしそれに感嘆の息を吐くことはできなかった。もっと衝撃的なものがその上にあった。
「お、お嬢……これは」
 菊池は目を疑った。司書が身につけていたショーツが、もはや下着と呼べないほど小さな布地だったからだ。
「これを……見てほしくって……」
 首まで赤くしながら、けれどもスカートを降ろすことはしない。司書は自分の淫らな姿を見せつけたがっていた。
 菊池はものをしっかり考えるのが難しくなった。本能に任せてその場に屈み、司書の股をじっくり見ようと脚の間に膝をついた。
「あ……うぅ……っ♡」
 間近で見ると、その下着の扇情的なデザインをはっきりと思い知る。尻を覆うはずの布地はなく、ただのゴム紐だった。腰回りには申し訳程度にレースが叩いてあるが、そんな装飾ではなにも隠れない。
 そして目を奪われるのは、普通のショーツでいうところのクロッチにあたる部分だった。布のかわりに、大ぶりなプラスチックパールがいくつも連なっている。司書のあえかなクレヴァスを、模造真珠がかろうじて隠している状態だった。
「アンタ……こんなものを穿いて、あんな男だらけの場所をうろついてたのか」
「う……は、はい……」
 司書はびくりと震えた。菊池の言葉に責めるようなニュアンスを感じとったらしい。
「どうして俺に言ってくれなかった。知っていればもう少しやりようがあった気がするぜ」
「やりよう……って」
「こんな楽しい遊びをお預けされるなんてな」
 責められているわけではないと知ると、司書の瞳はとろけた。
「スカートの中がこんなことになってるのを、俺とアンタしか知らないんだ。これほど楽しいことはないだろう。ああ……」
「ひうっ♡」
 菊池はたまらず司書の下腹部に触れた。彼女の黒い髪とお揃いの艶やかな陰毛。そのうちの一筋が下着の紐で寝ているのがなんともいとおしい。
「食い込んだりしないのか?」
「パールが……けっこう、大きいので……ふつうにしてれば、その……んんっ!」
 言われて、司書の割れ目を覆う真珠に触れる。確かにひとつひとつが大粒で、それがうまいこと陰唇の上に乗るようだった。
 これがもっと小ぶりだったら、きっと粒が割れ目の奥に入り込んでしまって痛いだろう。ただ扇情的なデザインではなく、よく考えられているようだった。
「こんなもの、どこで買ったんだ」
「通信販売で……その、先生が、喜んでくれるかと思って」
 そのけなげさに全身の産毛が逆立つほどの歓喜を覚えて、菊池は震えた。愛しさが背筋を伝う。
「ああ、いたく感動したよ。俺の真珠……アンタは俺の中で輝く核だ。日増しに美しくなる」
 言いながら菊池は司書の下腹に顔を寄せた。こしのある黒い茂みに頬ずりし、腕で尻を抱きしめて感激に浸った。
「うぅ……うぅ、恥ずかしいっ……」
「恥ずかしいって、お嬢が自分がしたことだろう」
「やっぱり……やめておけばよかったです」
「やめないでくれよ。ああもう、駄目だな。一度見て感慨深くなっちまうと、もうこの姿を知らない俺というのが想像できなくなる」
 言いながら立ち上がって、改めて司書を抱きしめた。
 首まで赤くする彼女の唇を吸いあげると、歯列が誘うように開いているのを確認して舌をねじこんだ。
 ざらついた粘膜が触れあって絡み合う感覚にひとしきり酔った後に口を離すと、司書もふわふわと夢の中にいるような、うっとりした顔をしていた。
「ふぁ……せんせい……」
 たまらずそんな愛しい女を抱きあげてベッドになだれ込んだ。身体を転がして、うつ伏せにさせる。細い紐が双臀の割れ目に引っかかっているだけの、見事な尻がむき出しになる。
「膝を立てて、うんと尻を突きだしてくれよ」
「う……ふ、はい……♡」
 司書は恥ずかしがりながらも従ってくれる。菊池の願い通り四つん這いになり、白く張りつめた尻をぐっと見せつけてくる。
 天国が俺の前に閃いている。そんなことさえ思いながら、菊池は司書の尻の谷間に顔を埋めた。
 ほとんど色素の沈着がない尻穴が、ヒクヒクと皺を疼かせている。その下には真珠に覆われた秘唇があり、さらにその白い珠は司書の粘膜から滲んだ蜜でぬらりと輝いた。これが天国でなくてなんなのだろう。
「お……?」
 たまらず真珠に手を伸ばしたところで、中心に穴が開いていて、紐が通っていることに気がつく。ゴム紐のレーンを好きなように移動させられるらしい。
「せんせ……あっ! だめっ♡」
 ふといたずら心が疼いて、何個も連なった珠のひとつをつまみあげる。それを秘唇から移動させて、震える尻穴の上につんと乗せてみた。
「な、なにするんですかぁっ……♡」
「こんな面白いものを穿いてるんだ。少し遊ばせてくれよ」
「いや、だ……だめ、ああぅっ♡」
 真珠を指で肛門に押し入れると、苦しげに皺が伸びて穴が開く。半分ほど入れてしまうと、チュプリと球体に吸いつくようにしてアヌスが蠢き、白い真珠を呑みこんでしまった。
「こいつはすごいな」
「おっふぅ……うぅ、だめぇ……取れなくなっちゃいますぅ♡」
 そんな心配はないだろう。真珠はしっかりとゴム紐にくくりつけられている。
「お尻……お尻は、とっても恥ずかしい穴だから……」
「恥ずかしい……ねぇ」
「ひうっ!」
 司書のアヌスの周りを親指と人差し指でつまむと、中に硬い真珠を咥えこんだ肛門が盛り上がった。そのまま力をこめると、差し込みの浅かった真珠がぬるりと排泄される。
「い、いや、見ないでくださぁい……お尻、いやですぅっ……♡」
 こうしていれば無限に遊べそうだと菊池は思った。司書の可憐な秘門にものを出し入れするのがこんなに楽しいとは。
 皺が縮んだり拡がったりするのもそうだし、司書が官能的な声をあげるのもたまらない。
 それに尻穴を愛撫するたびに、残りの真珠に覆われた秘唇もゆっくり開いていく。溢れ出した愛液が、珠の表面から滴り落ちそうなほどだった。
「アンタも気に入ってるな。尻の穴が感じるんだろう」
「く……ふぅ♡ そんなこと、ありませんっ」
「そうか? 尻に聞いてみるか」
「あ゛ひぃっ! あっくうぅ、あっ、あひっ……♡」
 ゴム紐を掴み、割れ目から横にずらして秘唇とアヌスをむきだしにする。そうしてから今度は、真珠ではなく菊池の指をゆっくり尻に埋めていった。
「うくうぅぅ~~っ……いやぁ、あっ、お尻ぃ♡ ほじっちゃいやですぅっ♡」
 指を締めつけるきつさを心地よく感じながら、中で鉤のように第二関節を曲げた。その瞬間、露わにされた司書の秘唇からぷちゅりと愛液がこぼれでた。
「やっぱり気持ちいいんだな」
「あう、うぅ、お尻……なんかで、感じちゃ……」
 司書の肉体が感度を上げているのは見れば明らかなのに、まだ意地を張っている。
「そんなの、変態だからぁ……先生に嫌われちゃうぅっ♡」
 しかもそれは菊池の反応を気にしてのことらしく、当の菊池は吹きだしそうになるのをこらえる。若干の呆れもあった。
「あのなあ、お嬢。俺は手ずからアンタの尻を弄くって、いい反応をするから喜んでるんだ。それがどうして嫌うなんてことになるんだ」
「だ、だって」
「あれこれ悩みすぎるぞ。頭の中でこねくり回したことじゃなく、目の前の俺を見て物事を決めてくれ」
「ぅ……ごめんなさい……」
「謝ってる暇があるなら、もっと乱れてくれ」
 言いながら菊池は司書の肛門から指を引き抜いていく。つられてアヌスが盛りあがり、司書の背筋がびくりと跳ねた。
 それを眺めつつ、片手で自分が下に穿いたものを脱いでいく。できることなら司書をずっと可愛がっていたいが、菊池の限界も迫ってきていた。
「あっ、おっ、おふぅッ♡」
 尻から指が抜け出ると、司書の肉の皺は名残惜しいとでも言いたげに疼いた。それをたまらない愉悦と共に眺めながら、司書の膣口にペニスをあてがった。
「せ、先生ぇ……あっ、あくふぅうぅぅっ♡ はぁっ、入ってくるうぅっ♡♡♡」
 後背位のスタイルで貫かれ、司書の四肢がぴんと突っ張った。菊池もそうで、股間から伝わる甘美な刺激に打ち震える。
「はひぃっ、せ、先生、せんせ、せんせえぇぇっ!」
 腰を掴みあげて、膣穴をゆっくりかき回す。菊池の動きに合わせて司書の喉からは切なそうな喘ぎ声が迸った。
 膣壁と肉茎をなじませるように動き、司書の中がこなれてくると、裏筋を使って司書の弱いところを擦り立てる。きゅうきゅうと締まり上がる肉壁を楽しんでから、子宮を揺らすつもりで奥まで突き上げた。
「くぅ……はぁ、お嬢、いい具合だ……♡」
「か、寛先生ぇっ♡ わらひもきもぢいいれすうぅっ♡ あ゛ひッ♡」
 そうしているうちに二人の呼吸がぴったり合い、肌のぶつかりあう音の感覚が短くなり、ひとつの場所を求めてのぼりつめていく。
「あぁイクぅ、せんせぇ、イッ、イッちゃううぅッッ♡♡♡」
「イッちまえ、俺もすぐ……くおぉう、ああ、お嬢、お嬢……♡」
 昂ぶりをぶつけるように体重をかけて、司書を圧す。その瞬間膣穴がぎゅうっと収縮し、肉壁が菊池のペニスを子宮の入り口に誘い込むように蠢いた。その刺激がとどめになって、司書の中に熱の塊を放出する。
「ひおぉおッ♡ 出てるうぅ、あぁ、出ながら……ああぁ、出し入れ……せんせぇ、出し入れしへぇぇっ♡」
 射精しながら腰を使う。尿道を粘ついた液体が滑っていくのを心地よく感じながら、この女の中に欲望をすべて吐き出そうと必死になる。
「おぉ……アンタの子宮が、俺の精子を飲んでるぞっ……♡」
「ひゃいぃっ♡ のんれますぅっ♡ 先生の白いの、おまんこの奥でごくごくしへるうぅぅっ♡」
 我を忘れて快感の余韻に浸る司書のいじらしさに、菊池の胸は波の押し寄せる海のように揺れた。
 愛しい、尊い、そんな気持ちが抑圧できなくなる。
「お嬢」
 思わず震える身体を背後から抱きしめ、うなじに鼻を埋めてまさぐった。
「せ……んせ……あふ……ぁ」
 司書はうっとりした声をあげながら、少しずつ弛緩していく。
 汗の流れるなめらかな肌は、螺鈿細工のような上品な艶やかさを放つ。彼女は真珠だ。菊池の中で輝きを放つ宝物。誰より美しいのに、そのことに彼女だけが気づかない。
「愛してるよ。俺の真珠」
「ふぁ……あ……う……」
 ぼんやりと自分を見つめ返してくる司書の髪をかき上げ、耳や首の白さに陶然とする。同時に飾り気のないそこを、己のものにしてやりたいという欲求が生まれだす。
 ここに真珠を飾りたい。司書の内面を映し出すように、清廉で美しい花珠で彩ってやりたい――熱を引きずる思考で、菊池はそんなことを考えた。