若草を食む

 その日図書館に現れた司書は、暖かそうなニットセーターに、膝下まであるフレアスカートという身なりだった。
 そして彼女のこだわりであるのか、セーターとスカートの上、胸の下から腰元まではかっちりとしたコルセットで覆われている。これまたいつも通りだ。司書は任務中も休日のデートでも、色や形は様々だがこうしてコルセットを締めていた。さすがに部屋でくつろいでいるときは外しているようだったが。
 菊池はそんな「いつも通り」の司書の姿をうっとり眺めた。
 一見すると窮屈そうなコルセットの下には、その締めつけを苦とも思わない柔らかな腰がある。スカートの中には果物のように丸い尻があり、割れ目を伝っていった先は切れ込みを入れたザクロになっている。芳醇な香りを放つその実をつまんで食すことができるのは菊池だけなのだ。
 不埒な思いを持て余しながら司書の配架を手伝い、ふとふたり横並びになったのでその表情を見やると、司書は顔を赤くしながら菊池のことを恨めしげに睨んでいた。
「…………」
 それは菊池が抱いているよこしまな気持ちを察して、要約するといやらしい目で見ないでと訴えているととれ、それも事実なのだろうが、何よりも彼女は今こうしている間にも自分に科せられ続けている『罰』とでも言うべきものと、それを与えている菊池に対し不満を訴えているのだ。
 しかしそれを実感すればするほど菊池の頬はにやけていく。
 一見普段通り、なんの変わりもなく仕事をこなす司書と自分の間に二人しか知らない秘密があるということがどうにも嬉しく、またその秘密の中身を思うとゆるゆると下半身が熱くなりもするのだった。
「先生……ひどいです……」
「ひどいかな?」
「本当に、ひどいから……」
「今夜も……楽しみにしてるぞ」
「あ、あうぅ……♡」
 司書は菊池への怒りよりも自分の身に起きていることへの恥ずかしさが勝るようで、そのままうつむいてしまう。
 そんな彼女の反応に満足し、現代で言うところのセクハラ行為だとわかりつつもついつい尻をスカート越しに撫でてしまうのだった。

「さあ、お嬢。今日の成果を見せてくれ」
「成果って……こんなもの、なんの成果だって言うんですかぁ」
「アンタの我慢の成果だよ。ほら、早く」
 下着だけの姿になった司書は、菊池に急かされておずおずと腕を上げる。すると彼女の清廉で、几帳面な性格からは想像もつかないものが姿を現した。
 司書の柔らかな腋の下は、彼女の頭髪と同じ真っ黒な毛に覆われていた。
「おぉ……だいぶ伸びたなぁ」
「うぅっ、剃らせてください……こんなのもういや……」
 司書は腋を晒す格好をしながら、菊池に許しを乞う。菊池の、愛しい男の気が変わって、こんな変態臭い日課は今すぐとりやめてくれないものかと心から願っている。しかしそれがおそらく無理であろうとも思っているので、言葉には諦念が滲む。
「お嬢……アンタの腋は最高だ。こんなに蠱惑的な腋の下を持ってる女を、俺はついぞ見たことがない。思わず生硬な言葉遣いになっちまうくらい感動してるんだ。ああ……俺がいくら言葉や筆を尽くしても、アンタの腋の素晴らしさは表現できないだろうな」
「ぐすっ……褒められてるのは、わかるのに……ぜんぜんうれしくないのがすごくつらいです」
「俺は今、アンタを強く賛美してるんだ。それがちっとも嬉しくない?」
「もっと、他のことで褒められたかったです……」
「もちろん他の部分も愛しいさ。完璧だと思ってるぜ。だからこそこの腋が素晴らしいものとして映えるのさ」
「寛先生が……こんなに変態だなんて思いませんでした……」
 果たして本当にそうだろうか? 自分は変態なのだろうか。菊池の考えはいつもこのあたりで迷子になる。
 いや、確かに恋人に腋毛を伸ばさせているというその行為だけをクローズアップすればこれは間違いなく変態の所業である。
 しかし菊池はなにも、腋毛それ単体に興奮しているわけではない。その辺の草花と同じように腋毛だけがどこかからポンと生えていたからと言ってそこに涎を垂らして駆け寄っていくまねはしない。
 司書に、愛しい女に、普段は決してムダ毛なんて生やしていない清廉潔白な恋人に腋毛の処理を禁じさせ、彼女が恥辱にまみれながらも自分の言うことを聞いてくれ、こうしてもはや陰部よりもずっと恥ずかしい場所と化してしまった腋の下を晒してくれるということ、そのすべてに興奮しているのだ。認識の解像度の違いとは言えないだろうか。
 余りに近づきすぎて『腋毛』という単語のみに囚われればただの変態だが、もう少し目を離して『恋人に腋毛を伸ばさせて』と認識すればいやこれもやはり変態だろうが、そこからさらにレゾリューションを上げて『恥ずかしがる恋人に腋毛を』とすれば、いや、やはりこれも変態なのだろうか。
 しかしだがけれども、恋人の恥ずかしがるところが見たい、他人の知らない一面を自分だけに見せてくれる、自分の命令を密かに守ってくれるのが嬉しい……そんなふうに考えれば、別にさほどおかしくはない。その程度の欲は誰だって持っているに違いない。俺は変態ではないと言う最終判断を菊池はくだす。
「もう、一ヶ月もこのままです……」
「そうだな。最初のうちは男の無精髭みたいだったのが」
「いやー! そんなこと言わないでぇっ」
 司書に腋毛の処理の禁止を命じてからだいたい一ヶ月。菊池としては朝顔やヒマワリの観察日記よろしく、彼女の毛が伸びていくさまを最近契約したばかりの携帯電話のカメラ機能とやらで記録していきたかったが、それだけは許してくださいと涙ながらに訴えられたので、実際に『それだけ』は勘弁してやっているのだ。至極残念である。カメラ機能で撮ったものはコンビニとやらを使えば現像できるそうだから、それをアルバムに綴じて『司書ノ腋毛観察日記』なんてものを作るのも悪くないと思っていたのだが。
 というか腋毛に限らず、菊池は司書を前にするとその裸身や痴態を写真におさめて残したいとよく思う。しかしそうしようとすると司書はいつも「写真が流出してしまったらもうお嫁にいけません……」と泣く。俺が嫁に貰ってやると言っても「そういう問題じゃないんです」とさらに泣くので、やはり彼女の写真をコレクションしたいという欲は我慢せざるを得ない。
「ん……やっぱり最高だ、お嬢。真っ黒に……まっすぐ生えて見栄えするのに、触ってみると柔らかくてくすぐったい」
「ひやぁ……いや、あぁ……♡」
 菊池が腋の下に鼻の先を埋めると、司書は小刻みに震えた。
「い、いつまでこんなの続けるんですかぁ」
「そうだな。ある程度伸びたら剃っちまったほうがいいな」
「うぅ……それじゃあ、もう……」
「もちろんまた伸ばしてもらうことになるけどな」
「いやぁぁ……どうしてぇ……!」
「お嬢の腋毛が最高すぎるのがいけないんだ。こんなものを見せられちゃ、もう綺麗に剃られた腋なんかじゃ満足できないよ」
「うぐぅ……先生の……ばか……♡」
 拗ねたような司書の口振りとは反対に、その下腹部はねっとり湿っているというのはもう菊池にとってはいつものことだ。
 腋の下に顔を潜り込ませつつ片手で下着をずらすと、ぬるぬるした感触の愛液が指に絡みついてくる。
「すごいな。もう白く濁ってる」
「だって……それは……あ、ああぁうぅっ♡ い、あっ、イクっ…ああぁぁぁっ♡」
 愛液をかきわけて、すでに包皮を押し上げて隆起するクリトリスをつまむ。司書の身体は面白いくらいに跳ね震え、菊池に不満を述べることもできなくなってしまう。
「さて……こうして俺の頼みを聞いてくれてるんだからな。お礼にたっぷり気持ちよくしてやらないと」
「はぁ…はぁ、あぁあっ……は、はい……♡」
 与えられる快楽は決して拒絶しないのがまた、この司書の可愛らしいところである。
 菊池が司書をベッドに横たわらせ、足をそろえてうつ伏せに寝かせると、その動向を察した司書が自分の鼻先にあった枕を持ち上げようとする。菊池はそれを受け取って、くいっと尻を上げた司書の腹の下に差し込んで高さを整える。
「あっ、ああぁっ♡あぁ、うっ、くふぅっ……あいっ、あっ、イクっ……せんせ、あ、イクぅぅっ……♡」
「こらこら……まだ先すら入ってないってのに」
「くふうぅうぅーーーっ……♡♡♡」
 絶頂に押し震える司書の尻をまたぎ、覆い被さるようにして肉茎を挿入していく。今まで何度も身体を重ねた中で、司書は特にこの体勢を好んだ。
 菊池としては彼女の顔が見えなくなるのが残念だったが、その乱れぶりにはひどく満足した。何より彼女の身を自分の胴や足で押さえつけてしまえるこの体位は、軽く突かれただけで絶頂してしまう司書を犯し続けるのに非常に適している。
「ひぃっ、あっひ、ひぎぃいいいっ♡ おっ、奥ぅっ、いぎなり奥にあだっでるうぅうっ♡ あぁあぁあぁーーっ♡」
「おう……ふ、お嬢の女の底に当たるのが…俺にもわかるぞ……♡」
「ひゃ、ひゃいぃっ、せ、先生が当たって……あぁ、あっ、あっ、ア゛ッ♡♡♡」
「もう我慢するなよ。好きなだけイッちまいな。まあ、俺が果てるまで続けさせては貰うが……」
「んっひぃんッ♡ あっ、あっ、イクっ、いっ、あっ、あっ、ひぐぅ♡ ああぁああぁぁーーーーーっ♡♡♡」
 司書の膣穴がきつくこじれ、中の菊池を締めあげる。その脈動に満足しながらも、さらに彼女を追いつめるように腰を揺する。この体勢だと小帯や裏筋に司書の膣穴のざらざらした部分が当たり、擦れるたびに股間から背筋を突き抜けるような快感が走る。
「くぉ……おぉ、お嬢……中に出すぞっ♡」
「いっひぃっ、ら、らひへくらひゃいぃっ♡ なか、あっ、なか、中出しひぃいっ♡ いぃいぃぃーーーーっ♡」
 菊池の先端から白濁が迸る。その瞬間にも司書の身体は跳ね、もう何度目かもわからない絶頂に打ち震えた。このまま軋み続ける膣穴の感触を味わいたい気持ちもあったが、今日はそれよりもしたいことがあった。
 菊池は後ろ髪を引かれる思いで肉茎を引き抜いて、絶頂の余韻でがら空きになっている司書の腋の下にそれを差し込んだ。
「はぁうっ♡ あっ、せ、せんせ……な、なにしゅるんれすかぁっ♡」
「う……く、どうしても…これが見たくってな……♡」
 司書の腕を強く押さえて腋の下と腕で肉茎を挟むようにする。その衝撃に後押しされて、菊池の中に残っていた精液がドロリと滲み出た。
 司書の真っ黒な腋毛に自分の白く濁った汚穢が絡むのは、菊池の想像通り鮮やかな光景だった。
「せ……先生は、本当に……変態です……」
「変態でいいさ。お嬢とこういうことができるんだったらな……」