白昼夢中の
その日菊池と司書は街に繰り出して、公開されたばかりの映画を観に行った。原作は菊池の「以前の生」でも記憶にあるような、不朽の名作とされるイギリスの小説だった。
以前、司書が生まれる前にも一度映画になっているのだという。
自著にも覚えのあることだ。菊池の代表作は彼の生前何度も無声映画になった。さらに没後もまた一度映画、二度はテレビドラマになったとこの身に転生してから知った。
暇つぶしと好奇心でそれを観て、まったく書いた覚えのない衝撃的なシーンに、なんだか笑ってしまったこともある。妻が夫に出す狂気の料理の描写だった。隣で観ていた他の文豪も遠慮なく笑っていた。
「たわしコロッケ、なぁ……」
「菊池先生?」
「ああいや、なんでもない」
司書は映画を観てから、夢心地とでもいうような気配をたたえていた。どこかうっとりとした顔をして、足取りまでふわふわと頼りない。
その身を支えつつ早めの夕食にしようと洋食屋に入ると、やっぱり恍惚とした様子の司書はワインを飲みたいと言い出した。
菊池と外出して、司書のほうからアルコールを欲するのはこれが初めてだった。少し驚きながらもグラスを合わせると、頬を紅潮させた司書は美味そうに葡萄酒を飲み干した。
それが先ほど観た映画の世界を追いかけたくてのことだとうっすら気づいて、そのあどけなさが愛しくもなってくる。
しかし図書館に戻り、ふたりで司書の部屋になだれ込んでからも彼女の心は高揚したままだった。ベッドに腰掛けた菊池に「お湯割りはいかがですか」と訊ねてくる。司書のほうから酒を勧めてくるなんていうのも、これまた初めてのことだった。
それが新鮮であったし、ワイン一杯と司書が出すもう一杯で酔ってしまうことはないと思った菊池は、それじゃあもらおうかな、なんて微笑んだ。
「寝台列車に乗ってみたいんです」
映画を思い出してか、ほろ酔いの司書が菊池の隣でうっとり口にする。
「懐かしいな。よく乗ったものだが……今じゃそうそうないのかな」
「あるにはあるんです。でも、すごく高価か、すごく人気かのどちらかで。券がとれないんです」
「高価なぁ……ま、あの映画に出てたようなのに乗りたきゃ、それなりの用意がいるだろうな」
「ふふ……あの映画の世界は、私の夢を叶えてくれるのです。寝台列車に乗って、雪原をゆく……列車は私を運んで、見たことのない場所まで連れていってくれて」
豪華な寝台列車が舞台の映画だった。
「そこで起きた殺人事件を、名探偵が解決してくれると」
「もう、違います。映画はそうですけど、私の夢は……どこか、遠くに運んでもらいたいって……まだ見たことのない世界を見たいっていう……」
「お嬢は旅がしたいのか」
「旅……そうですね。旅行じゃなくて。旅……かな」
突然司書が菊池に身を預けた。膝の上に頭をコロンと乗せ、甘えるように首を振る。
「もっといろいろなものを見なくちゃって、常々思うので……」
「おう。見るといい。旅はいいぞ、人生を豊かにしてくれる。自分の足で踏みしめた大地のぶんだけ、心が広くなるってもんだ」
言いつつ彼女の髪を撫でる。司書は心地よさそうに目を細め、さらに菊池の膝に懐くのだった。
「酔っちまったか?」
「んんっ……菊池先生とは、旅じゃなくて旅行がしたいな……」
菊池の言葉に首を振りながら、潤んだ瞳で司書が言う。
「先生と、寝台列車で」
「それはいいな。お嬢と二人でうんと遠くまで行くってのも」
「いつか私の、特務司書としてのお仕事が一段落ついたら……一緒に」
「…………」
司書の頭を撫でながらも、菊池の思考はちょっと泳いでしまう。謎の侵蝕者たちとの戦いはいつまで続くのだろうか。その戦いが終わったとき、自分たち文豪はどうなってしまうのだろうか……。
現代に生きる上で不自由のないようは措置は執られている。そのおかげで文豪の中にはスマートフォンとやらの契約をしている者もいるし、菊池だってレンタルビデオ店のカードを作ったりしている。
しかしそれは文豪たちがこの図書館に置いて、戦いにおいて必要な存在だからだろう。ある日突然その権利がとりあげられてしまわないとも限らないのだ。
そもそも文豪という存在について、司書や館長ですらよくわかっていないこともあるのだというからなんとも言えない。
自分はこの愛しい存在と、ずっと一緒に過ごすことができるのだろうか。そんなことを考えてしまうのだった。
「ん……?」
暗澹たる思考は、膝の上の司書に妨げられた。
「おいおい、お嬢」
「んん……っ、うまく……とれない……」
司書はいつの間にか、菊池のズボンのチャックを下ろそうと躍起になっていた。もちろんその先には奉仕の欲求があるのだろう。
「先生……私、なんだか……気持ちが高揚してしまって」
「いや、まあ……」
司書と恋人同士と呼べる関係になってから、身体を重ねたのはまだ指で数えられる程度だ。
けれどもその数回で、司書の持つ淫蕩な性質、あまりに感じやすい肉体を菊池はしっかりと感じていた。
酔いと密着が司書の情欲に火をつけてしまったのだと思うと、その責任をとってやらねばという気持ちになってくる。
司書の頭を撫でながら腰を浮かせて、ズボンを自分の足から抜き取っていく。下着をずらしてまだやわやわと甘える肉茎を露出させると、司書の喉が上下に動いた。
「アンタがこんなにスケベな女だとは思わなかったよ」
「そんなこと、言わないで……その通りだとは、思うのですけど……んんっ♡」
「お……ふっ」
司書が肉茎にしゃぶりつく。こうされるのは二度目だったが、司書は普段の振る舞いからは想像がつかないほど獰猛で、情熱的な愛撫をする。
腰から先が持って行かれてしまいそうになる。司書の口淫は菊池にとって技術革新というか、時代の流れをも思わせるものだった。
娼婦ですらどうかというだけの巧みな愛撫を、こんな純真な娘が行うのだ。
「んぶぅ……んっ、じゅる…んぶふぅっ、はぶ……♡ ぷはぁ、せんせい……気持ちいいですか?」
「ああ……腰が浮いちまうよ」
「ふふっ……ん、どうされるのが、一番いいですか? もっとこうしてほしいとか……あります?」
問いかけながらも司書の手は陰毛を撫でている。茂みの根本を指先でかりかり掻いて、菊池の機嫌を伺うように。
「お嬢の好きにしてみな。そうされるのが一番いい」
「む……一番難しいオーダーを……」
「お嬢が俺のためにあれこれ考えてくれるのが嬉しいんだ」
「もう……菊池先生……好き……んんっ……♡」
先端が再び生ぬるい粘膜の中に呑まれる。司書は舌を使うのが好きで、肉茎を挟み込んだ唇はさほど動かさず、舌を蠢かすための固定具のように扱っているような気配があった。
「んぢゅ、んぢゅ、んぢゅるうぅぅ♡」
「おお……おぉ……上手だ……♡」
唇でカリ首を絞められ、その上で亀頭が何度も舌になぶられる。その愛撫の激しさのわりに幹をしごいてくれないのは手落ちではなく、なんだかお預けを食らっているようだと菊池は思う。
このまだあどけなさの残る女に、自分は今快楽の加減を握られているのだ。
「んぶぅっ……ふぁ、んっ…とろとろしたのが……♡ んんっ、おいしいです」
「本当か? 美味くもないだろう、そんなもの」
「う…ん、しょっぱくて、にがくて……でも、私の……よくわからない部分が、おいしいって言ってるから……」
「ふうん。ここかな」
「ひゃうっ?! あっ、あっ、だめですっ♡」
司書の尻の割れ目をなぞって、その先にある粘膜に触れて菊池は驚いた。そこを覆う下着が、搾れそうなくらいに濡れていたからだ。少し布地をつまめば淫汁が滴ってきそうな湿り方だった。
「またこんなに濡らして……」
「だって、舐めてると……口の中が気持ちいいから……♡」
ぞくぞくする。司書の肉体の感度は精神に引きずられてのものだ。愛する者に触れている、触れられているという悦びが、司書の性感をどこまでも高めていく。だから口唇で感じるなどということが起きうるのだ。
そんな淫らで、愚かでもある存在を前にすると、菊池はどうしようもなく胸をかきむしりたくなる。そしてそのあとには必ず、この娘を自分のものにしたいと強く想う。
「お嬢、もう口はいいから尻向けな。たまらなくなった」
「んんっ……は、はい……おしり、を……んっ!」
司書がゆるゆると臀部を向けてくるのを待たず、菊池は彼女の腰を掴んだ。濡れた下着を無理やり横に引っ張り、濡れそぼつ粘膜を露わにする。
「んっはぁっ、あっ、だめ、だめ、ですぅ……♡また、私、あっ、すぐ、イッちゃうからっ、あぁあぁっ♡」
司書の悲鳴を無視して、ぬるぬるの膣穴に思い切り亀頭をめり込ませた。熱いゼリーに包まれるような感覚が菊池を襲う。ゼリーは間もなく強く震えだし、司書の絶頂を菊池に伝えてくる。
「ふひぃぃいっ♡ あひっ、あっ、ああぁぁ~~~っ……♡♡♡」
「また派手にイッたな……いいぜ、もっと感じてくれ。お嬢のいいとこ、たくさん突いてやるから」
最初こそこの敏感すぎる身体に触れ、簡単に絶頂させてはならないと気を遣ったが、回を重ねるたびにそれは無駄だと思い知った。いくら用心しても司書はたやすく気をやってしまう。ならばもう好きなだけ感じさせてやればいい。それが結局互いの満足にも繋がっていく。
「あっ、アッ、ああぁあぁっ♡ イッぐぅっ、せんせえっ♡ また、アッ、いひゅぎゅうぅぅぅ、うぅうぅうーーーっ♡」
司書が自分の手や口や肉茎で正気を失った声を上げるのを眺めているのが、菊池は好きだった。普段の聡明そうな顔も、二人きりのときの甘えん坊な声も捨て、ただただ快楽のみを求めるケダモノじみた姿を晒す司書はあまりに愚直で、なにより純粋だった。
「あぁ、お嬢は本当に可愛いな……!」
「ひっぐぅっ、あっ、かわいくないれひゅうっ……こおっ、こんな、ひ、い、イギまぐりのバカ女、ぜんぜんっ…んぁっ、あひいぃんっ♡」
「おらおら、勿体ないこと言ってるともっと当てちまうぞ♡」
言いながら本当に先端を奥の奥に当てて小刻みに動かすと、司書は面白いくらいに仰け反って震えた。
「ひっ、ぐぅっ、あっ、ああああぁあっ♡ し、子宮はらめれすううっ♡ せんせぇに突かれると、子宮がぐうって動いて♡ はあっ、あっ、はやく、せいえき、のみたいって言い出しちゃうからぁっ♡」
「好きなだけ飲ませてやる、お嬢の子宮がゲップするくらいたっぷり出してやるからな……おらっ♡」
「あ゛ーーーっ! あっ、ア、いぐっ、あっ、イグうぅーーーーっ♡♡♡」
勢いよく腰を突き上げると、司書が再び絶頂した。それにあわせて菊池も精を放つ。彼女の言葉どおりどこまでもほぐれた肉穴の奥を、殴りつけるように激しい射精で圧倒していく。
「ふいいいいっ♡ 出てるぅ……あァ……出てるよぉっ……♡」
精液を咀嚼するように司書の膣穴が蠢く。負けじと菊池も射精しながら腰を振り立てて、汁まみれの粘膜をかき回していく。
互いに熱の余韻が抜けていくまでそんなことを繰り返して、どちらともなく弛緩したのを見計らって深く息を吐く。
「はぁ……あぁ……あ……ふ、きくち、せんせえぇ……♡」
「ん……その、菊池ってのなあ……」
「ふぁぁっ……?」
「寛って呼んでくれよ。なあ」
「え……う、かん、せんせえ……?」
「そうそう、それいいな。カン先生っての」
「んんっ……寛せんせい……♡」
司書の声が耳に心地いい。甘美さに感じ入り、再び股間が熱を持ちそうだった。