長崎諫早出身の麗子・クルックさんのインタビューをさせていただいた。
パリ在住で映画やCFなどで施す特殊メーキャップのパイオニアーとして活躍されている。
「愛と哀しみのボレロ」での加齢メイクや、最近では「ガツンと言ってくれたまえ」というフレーズが記憶に新しい缶コーヒーのCMで、クリントン大統領のメイクを施した方だ。
とても面白い話を聞かせていただいた。詳しくは是非、8月の「話し処 ひっこみじ庵」を是非、お聴きいただきたい。
数多くの俳優の肌に直接触れると同時に、人工的な肌造りをおよそ30年に渡って手掛けてきた麗子さん。
その原点にあるのは「干潟」での体験なのだという。
足を踏み入れた時の何とも言えない「感覚」。
麗子さんは、ヒトの皮膚についてこんなイメージを持っているという。
”干潟に生息する一見グロテスクな生き物たちが、海の中にゆったりとただよう「くらげ」のような衣を身にまとって地上に上がり人の肌は産まれた――。”
ある舞台で、大量の土を使った舞台美術を手掛けた時のこと。
土に水を混ぜ、手でこねる作業を行なっていたアルバイトの若い男性たちが、余りにも多量の土をこねつづけているうちに、その表情が恍惚となっていったという。
つまり、ヒトは、土の感覚を肌で感じると、エクスタシーを感じるのだ。
麗子さんは「肌は脳よりも先に感じる」のだという。
不謹慎に聞こえるかも知れないが、人間は光や音、匂い、味覚を失ったとしても、なんとか生きていけるが、触感を司る「肌」の多くを喪ってしまうと生きていけない。
今、干潟は埋め立てられ、あらゆる土がコンクリートやアスファルトに覆い被されている。
さらに私たちの身の回りには、バーチャルな触れることのない「幻物」だらけ。
それは勿論、触れることはできない。
生き物のヒトとしての力は今、失われつつあるのかもしれない。