パリッシュ★ブルーの空


きのうは、君とバルコニーで、夕方鳴きはじめる不思議な鳥の歌を聞いて、
急に冷たくなった風からおたがいをかばいながら部屋に入った。
部屋の中はあったかで、君のおしゃべりや笑い声は、
夜が来たことに気づかないほど、あたりをにぎやかに色とりどりにした。

今日は、僕はひとりで窓越しに、はじまったばかりの夜の空を眺めている。
これから続く長い静かな夜を、僕は嫌いではない。
でも、君はひとりでこの空の下にいなければいいな。

いつかいっしょに見たパリッシュの画集。
あの絵から切り取ったみたいな夜のはじまりの青。

パリッシュ★ブルーを、君は孤独の色だと言った。
パリッシュ★ブルーを、僕は安らかな祈りの色だと思う。

僕と君のわがままは、おたがいを通り越して鋭いナイフの刃になって、
柔らかいけど頑固にからんだ毛糸玉みたいなふたりの時を断ち切った。

この夜に君は泣いて、僕は沈黙する。
月が遠く高くなるころ、僕たちは後悔と言い訳に満ちた重たい心をもてあまして、
都合のいい救いのシーンを胸に描いて、それぞれのベッドで眠るのだろう。

でもいまは、まだうっすらと残るきのうのあたたかさに守られて、
涙も、草の葉から伝い落ちる夜露のさいしょの一滴のように、
駆け引きのない、まっすぐだった、かつての僕たちへの鎮魂になる。

夜のカーテンがスクリーンになって、地平線に隠れた太陽の残像を映し出す。
沈澱する光の粒子が隠していた闇の天井があらわになる。
そして、僕たちはひとりだということを思い知らされる。

明日は、僕たちは少し悲しみに慣れて、やりすごすことを覚えるのだろう。
永遠に続く中途半端な夜のなかで、君の幻を抱いているだけだった僕は、
君に訪れる、あたりまえの夜明けを認めたくなかった。
僕の好きな青い夜のなかに、ずっとふたりきりでいられると思っていた。



 

2002.5.21■■

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